毎年春になると、日本中でスギ花粉症に苦しむ人々が続出します。目はかゆいし鼻はグズグズ、ティッシュが手放せない――もはや花粉症は国民病とも言われ、2019年の調査では日本人の約38.8%(およそ3人に1人)がスギ花粉症に罹患していることが分かっています。
年々「昨年の○倍の花粉が…」と報道されるほど状況は悪化の一途(気のせいでしょうか?)。そこで花粉症患者なら一度は夢見る極論、「いっそ日本からスギの木を根こそぎ全滅させてしまったら?」を真面目に考えてみましょう。花粉症シーズンに鼻水と共に読んでいただければ幸いです。
スギ全滅で得られるメリット
スギを一網打尽に駆逐できたとしたら、まず何よりも花粉症患者の救済になります。日本の森林の約18%を占めるスギ は春先に大量の花粉を飛ばし、多くの人の生活の質を下げています。仮にスギ花粉が完全になくなれば、春にマスクと目薬が手放せない日々から解放され、仕事や勉強の効率低下も防げます。ある試算では、花粉症による労働生産性の低下が日本全体で1日あたり約2,340億円もの経済損失を招くとも言われています 。スギ全滅で花粉症が無くなれば、この「鼻水による国力低下」も食い止められるでしょう。
さらに、スギ伐採後に広葉樹など別の樹種を植え替えることで、環境面でのメリットも期待できます。戦後に拡大造林で植えすぎたスギを適度に減らし、かつて里山に多かったクヌギ・ナラ等の広葉樹に転換すれば、生態系の多様性が高まり自然環境が豊かになります (花粉症地獄の日本「森がスギだらけ」になったワケ 岸田政権がついに花粉症対策に取り組むが… | 資源・エネルギー | 東洋経済オンライン)。明るい広葉樹林では様々な動植物が息づき、ナラ類が豊富に実をつければ野生動物の餌場となって人里への出没を減らす効果も期待できます (里山林の広葉樹循環利用のすすめ:林野庁)(イノシシやシカにとっては森にビュッフェがオープンするようなもの?)。また季節の移ろいも感じられるようになり、秋には杉林では味わえない見事な紅葉を拝める森になるでしょう。
経済的にもプラスの側面があります。スギ花粉症による医療費やグッズ購入(マスク、空気清浄機、点鼻薬etc.)の支出が減る分、他の消費に回せるお金が増えるでしょう。春に花粉を避けて北海道や海外に「避粉旅行」する人もいますが、スギが無ければそうした余計な出費や休暇取得も不要になります。さらに伐採したスギ材は大量の国産木材資源となります。建材や家具、紙の原料などに活用すれば輸入木材への依存を下げるチャンスです。急に日本中で“大量の杉材セール”が始まれば、材料費が下がって家を新築しやすくなる…なんて効果もあるかもしれません(※材木市でスギが投げ売り状態?)。
スギ全滅によるデメリット
一方、スギを根絶してしまうことには深刻なデメリットも潜んでいます。まず懸念されるのは環境への影響です。山からスギが一斉に消えれば森林のバランスが崩れ、土壌がむき出しになってしまいます。木がなくなった山は雨が降ると保水力が低下し、土砂崩れや洪水が起きやすくなります。特に急に皆伐(かいばつ)して広範囲がハゲ山になると、線状降水帯のような豪雨時に山腹崩壊や土石流が発生し、ふもとの地域にまで甚大な被害が及ぶ危険性があります。スギ伐採自体は花粉症対策として有効でも、やり方を誤れば「環境破壊」になりかねないのです。
また、日本の林業・木材産業への打撃も無視できません。長年かけて育てたスギを一気に全滅させれば、林業従事者にとっては計画が狂います。戦後植林されたスギは今ちょうど利用期を迎えるものも多く、本来なら順次伐採して木材として出荷するはずでした。しかし「全滅」となると計画的な収穫ではなく強制的な伐採ですから、木材価格の暴落や在庫過多で逆に多くが無駄になる恐れもあります。林業関係者にとっては「宝の山」が一夜にして「ただの山」になってしまい、経済的損失を被るかもしれません。さらに日本建築や伝統文化にも影響が及びます。例えば神社の鳥居やお酒の杉樽、屋久島の縄文杉のような名木まで失われてしまったら、文化的損失は計り知れません(さすがに世界遺産の縄文杉まで伐るのは国民的ブーイングでしょうが…)。
そして忘れてはならないのが、花粉症の原因はスギだけではないという点です。ヒノキ(檜)など他の植物の花粉症もあるため、スギを全滅させても「花粉症ゼロ」になるわけではありません。特にスギを切った後にヒノキが大量に残れば、今度はヒノキ花粉症が猛威を振るう可能性もあります(ヒノキ花粉はスギの飛散後にピークが来ます)。ブタクサやイネ科植物など秋の花粉症も存在しますから、スギ全滅=花粉症完全撲滅と油断していると「敵(アレルゲン)は他にもいた!」なんてことにもなりかねません。
「早期に全滅」vs「長期的に全滅」:その違いは?
スギを全滅させるにしても、やり方(時間軸)の違いで影響は大きく異なります。例えば「来年までに日本中のスギを根こそぎ伐採!」という短期決戦プランと、「30年かけて徐々にスギを他の木に植え替えていく」という長期プランでは、それぞれメリット・デメリットが変わってきます。
短期(早期)に一気に殲滅する場合: 最短で花粉症患者を救済できる点が最大のメリットです。今年切れば来年の春からスギ花粉はほぼ飛ばなくなるわけですから、待ち望んだ「春の快適さ」がすぐ手に入ります。また、短期間に大量のスギ材が市場に出回るため、一時的に木材価格が下がり消費者に嬉しい効果が出る可能性もあります。反面、副作用も甚大です。前述のように山の保水力低下による災害リスクが一気に高まりますし、木材価格急落は林業を破綻させかねません。なにより現実問題として、日本中のスギ(約431万ヘクタール相当)を一斉に伐採・処理するだけの人手も予算もありません。極端な話、国民総出でチェーンソーを担いで**「対スギ総力戦」**に挑むくらいの覚悟が要りますが、それでも現実には難しいでしょう(花粉症患者の恨みはそれくらい深いかもしれませんが…)。切った後の植林が追いつかず、禿山だけが大量発生…なんて事態は避けたいところです。
長期(ゆっくり)時間をかけて減らす場合: 環境や産業へのショックを和らげつつ花粉問題を解決していくアプローチです。政府も2023年に「30年後に花粉発生量を半減させる」という目標を掲げ、まず10年でスギ人工林を2割ほど減少させる計画を打ち出しました (なぜ花粉症の原因となるスギの木を切らないの?政府の対策も紹介 | その他 | お役立ちコラム | ニホン・ドレン株式会社)。このように数十年かけて徐々にスギを伐採し、花粉の少ない品種や他樹種に植え替えていけば、森の生態系も安定を保ちつつ花粉症も緩和されていきます。林業者も計画的に木を使えるため、木材供給を調整しやすく経済的損失も抑えられるでしょう。デメリットとしては、とにかく時間がかかること。花粉症患者にとっては「そんな悠長な…あと何十年もこの鼻炎と付き合うのか!」とツッコミたくなる話です。気候変動で春の気温が上昇すると花粉飛散時期が早まり期間も長くなるとの指摘もあり (気候変動で長期化する花粉シーズン | 世界経済フォーラム)、30年も待っていたら患者数がさらに増えてしまう懸念もあります。それでも急いては事を仕損じるので、現実的には安全第一で長期的な森づくりをする方が望ましいでしょう。
おわりに:スギを全滅させるべきか?
以上、スギを日本から全滅させた場合のメリットとデメリットを見てきました。確かに花粉症患者にとって「打倒スギ」は魅力的な解決策に映ります。鼻水に悩まされない春が来るなら、多少の山崩れリスクには目をつぶりたくなる…という人もいるかもしれません。しかし、森や社会への影響を考えると、スギ皆殺しは諸刃の剣です。花粉症対策としてはスギ全滅よりも、徐々に**「脱・スギ林」**を進めていく現実的なプランが妥当でしょう。広葉樹も交えた多様な森にシフトしつつ、同時に医療的な花粉症治療も進歩すれば鬼に金棒です。将来、「春なのにマスク不要」な世界が訪れることを祈りつつ、今日も私は鼻セレブ(高級ティッシュ)を手放せそうにありません…。
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